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山形大学
大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻
城戸 淳二教授



有機ELを夢のディスプレイにさせた


城戸 淳二教授

次世代のパネル技術として脚光を浴びている有機EL(Electro Luminescence)。現在の液晶技術が席捲する薄型ディスプレイ市場においても、次に来るのは有機ELだという声が多い。

今回の研究室訪問で取材にうかがったのは、山形大学大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻城戸 淳二教授の研究室。世界初の白色有機EL素子の開発に成功し、有機ELデバイスの可能性を拓いた世界のトップドクターだ。現在、山形大学で教鞭を取り有機ELの研究を進めるかたわらで、学生はもちろんメーカーからの研究者も含めて、有機ELの人材育成にも力を入れる有機ELの伝道師ともいえる存在だ。

有機ELが、ディスプレイ市場で注目が集まっているのには、液晶にはない自発光の仕組みを持っているからだ。簡単に説明すると、ガラス面に塗布した有機物に電気を通すとその有機物が励起状態となって発光する。この現象を発光画素として使うのが有機ELディスプレイの仕組み。これに対して液晶は、自発光しないので、バックライトで光らせてフィルターを通して映像にする仕組みになっている。

有機ELの場合、自らが発光するため、より自然の光に近くキラキラとした映像が楽しめる。さらに、バックライトが不要なので構造そのものが液晶よりも簡単になるうえ、超薄型も可能になる。さらには、消費電力を低く抑えることができるといったメリットがあるのだ。

城戸先生は、1993年に有機ELにおいて色の基本となる白色有機EL素子の開発に成功した。それまで不可能だと言われてきた、白色を発光させた画期的な成果によって、有機ELがディスプレイデバイスに応用できる道が拓けたのだ。


次々と応用製品が登場し、大型ディスプレイの登場も目前

2007年にはソニーが小型の有機ELテレビ「XEL-1」を発売し、その圧倒的な描写力の美しさに、驚きの声が上がった。その翌年の2008年は、有機EL元年とも言われ、その期待度も高まっていった年だった。2008年のCESのレポートを読み返してみると、ソニーは27型の有機ELディスプレイを参考商品として展示したり、サムソンは31型の大型有機ELディスプレイを展示したのに加えて、デジタルカメラのモニターを有機ELにした製品を発表したりするなど、有機ELがらみのトピックが数多くあり、熱い視線が注がれていたのだ。

それから約1年を経過した2009年のCESでは、ソニーが厚さ1センチ未満の超薄型の有機ELディスプレイを技術展示した他に、“折れ曲がる”有機ELディスプレイを披露して話題になった。こういった技術展示に対して、サムソンやLG電子などの韓国勢が、市販製品に近い状態というアナウンスで有機ELディスプレイを展示しており、製品化競争はすでにスタートしていると言える。全世界的な景気後退によってある程度の足踏みをしていることは否めないが、有機ELディスプレイのマーケットが開拓されるのは時間の問題なのだ。

日本のメーカー勢は、製品化で韓国勢に一歩リードを許しているかと思えば、ソニーは新型のウォークマンのディスプレイに有機ELを採用。この春にかけての目玉商品となるだろう。また、トヨタのレクサスの一部の車種では、白色有機ELディスプレイを採用した。


国内メーカーの迷走が懸念

このように、本格的な市場投入に向けて着実に前進しているように見える有機ELディスプレイだが、城戸先生から見て、その可能性と問題点は、どのように映っているいるのだろうか。

「商品化のスピードで言えば日本は早く、東北パイオニアが世界初の量産化に成功しました。TDKも技術を持っています。そこに、サムソンや台湾のライトディスプレイなどの外国勢が非常に力を付けてきて、市場規模を拡大してきています。東芝松下ディスプレイテクノロジーも高い技術を持っていますが、現在の状況では売り先がない状態です。有機ELディスプレイの大型化に関して言えば、30〜50インチクラスの製品を作ることは技術的に可能ですし寿命の問題も解決されています。ただ、一気に大型化を進めることはできません。小さいサイズからスタートして、生産技術を蓄積していく必要があります。例えば、ソニーの新型ウォークマンに有機ELが採用されたのは、そのプロセスを経ていると言ってよいでしょう」

世界同時不況の中で、メーカーは苦戦を強いられているだけに、新しい技術への投資をためらう局面も多くなっている。商品のスピード化では早かった日本のメーカーだったが、技術は持っていてもそれを使った製品を販売する計画が途絶えているという状況がある。とはいえ、液晶パネルとTFT基盤技術などを共通化できることもあって、国内で液晶パネルを製造しているメーカーは有機ELの技術開発に余念がないようだ。

「日本のメーカーも有機ELに注力するようにはなってきています。しかし、発光素子の材料や製膜技術の方式の最適な判断に関して、ハードルが高いようです。ここで、誤った方法を選択してしまうと、製品化がさらに遅れてしまいますから非常に重要なのですが。国内メーカーを見回してみれば、あのメーカーの技術と、このメーカーのこの技術が組み合わされば、すぐにでも大型の有機ELディスプレイが開発できるのでしょうが・・・。しかし、それはやらない。やはり、現状の技術と製品、力関係などもありますから、そちらを優先させる判断があるのでしょう」

日本の有機EL研究界の重鎮である城戸先生としては、今の現状を見ていると歯がゆい思いもありそうだ。最適な技術を持ってすれば、迅速に市場に投入できる可能性があるにも関わらず、各メーカーの閉鎖的な開発環境が有機ELの製品化の足かせとなっているのだ。

そういった、国内メーカーの動きに対して、韓国のサムソンとは対照的だという。城戸先生の研究室に頻繁に訪れては、アドバイスを受けたり、情報収集をしているのだ。また、国の研究開発プロジェクトもドイツなどの諸外国に比べて、日本は予算も少なく、実効性が低いものとなっているという。技術にしろ、予算にしろ、選択と集中をしなければ日本はこれから遅れをとってしまうこともある。一歩リードしていると、うかうかとしている状態ではないのだ。


照明での有機ELはすでに商用化へ

そして、ディスプレイデバイスとして注目を浴びていてる有機ELだが、もう一つの大きな市場として照明器具への応用がある。有機EL照明に関しては、すでに商品化の目途が立っており、三菱重工、ローム、凸版印刷、三井物産、さらには城戸先生も個人で出資した「ルミオテック」が設立され、2009年にはサンプルパネルの販売が予定されているという。

有機EL照明は、薄型で消費電力が低く、水銀などの物質も使わないうえに、より自然光に近い次世代の照明デバイスとしての期待も高い有機EL。環境意識の高まりからも脱白熱電球が進む中で、すでに商品化されているLEDのライバルとして市場に投入されるのだ。

「競争相手はLEDですが、十分間に合うタイミングで市場に投入できるでしょう。薄型なのでデザインの自由度が高いので、見たことのない照明器具が出てくるでしょうね。今年は、まずは屋外広告などでみなさんの目に見える形で登場すると思います」

有機ELを山形の地域産業振興のエンジンに

さらに、城戸先生が力を入れているのが「山形有機エレクトロニクスバレー」構想だ。山形を有機EL、有機半導体産業の集積地にし、地域産業振興につなげるという構想だ。山形県、山形大学工学部、そして地元企業も連動した動きがある。この立役者となっているのが城戸先生なのだ。

「企業誘致では、企業の業績にその地域の経済状況が左右されて地域雇用が破壊されてしまうこともあります。山形は有機ELデバイス製造に必要な製造メーカーなど、ものづくり企業が数多く存在します。何か製品を試作しようと思ったら、山形の有機ELバレーに持ってくればすぐに出来ます。特色ある技術を生み出し、地域に根付かせることで景気に連動しない雇用を生み出すことができるはずですから」

世界の先端を走る研究者として、後進を育成する教育者として、さらには地域産業の立役者として、スーパーな活動を続ける城戸先生。有機ELの光が山形の地域を照らし、さらには日本の産業を活性化させるはずだ。


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