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研究室訪問
科学技術振興機構 理事長
北澤 宏一 氏



超電導で「科学の夢を、再び」


北澤 宏一 氏

技術大国、科学立国と言われ世界の先端技術の世界で常に争ってきた日本。国際競争力の低下などが喧伝される中でも、iPS細胞樹立の成功やノーベル賞受賞などの快挙をなしとげてきた。2008年のこれらのニュースは、スター不在だった日本の科学技術の世界に明るいニュースをもたらしたと言える。

今回の研究室訪問に登場するのは、日本の科学技術界を牽引する科学技術振興機構 理事長北澤 宏一先生。高温超電導技術によって実用化が見えてきた世界規模のエネルギー送電システムや、サハラ砂漠から増殖される太陽光発電システムなど、科学に夢を持てる研究テーマについて、お話をうかがった。

------ 超電導技術を地球規模の送電システムにするという壮大なプロジェクトについて教えてください。

このシステムは、高温超電導ケーブルで地球をぐるりと巻くような直流送電網を構築する計画だ。格子状に電線が配置されていれば、一か所にトラブルがあったとしても、他の電線を経由することで電力を供給できる。これを提唱者の元三洋電機社長桑野幸徳氏の命名にしたがって、「GENESIS計画」 (Global Energy Network Equipped with Solar cells and International Superconductor grids)と呼んでいる。

なぜ、地球全体をつなぐ必要があるのか。例えば、太陽光発電は昼間しか発電できないが、地球規模で送電システムがつながっていれば、夜間のエリアがあっても昼間のエリアに位置する太陽光発電が電力を供給すれば良い。風力発電でも、風が吹いて発電できる発電所が電力を供給すれば良い。自然エネルギーの供給の不安定さを克服できる。  この地球規模のGENESISシステムには、あらゆる発電源と消費者とがつながれるだろう。石油などの化石エネルギー、原子力、そして太陽光発電をはじめとする自然エネルギーの発電は、それぞれがメリットとデメリットを持っている。それらすべてが、GENESISに接続されれば解決される。

例えば、原子力発電は安価な電力を供給できるが、一日中一定の電力を発電し続けるように運転することが装置上有利である。ところが消費電力は昼と夜とでは4倍も差がでることがある。このため、夜間に膨大な余剰電力を生み出す。昼の消費地と夜の消費地とが繋がれることでこの電力負荷変動はずっと小さくなる。地球規模で電力を共有しても、さらに電力が余ったらその電力で海水を淡水化して貯蔵するといったことも考えられるだろう。

超電導電線であれば、送電ロスがないので、どれだけ電線が長くても電力を無駄にすることがない。また、大電力を遠距離に送電するには最もコストの低い技術になってきている。地中にケーブルを埋めて大電力を送電することが可能である。

------ サハラ砂漠に大型の太陽発電システムを構築する研究も提唱しておられますね。

GENESIS計画に向けた具体的な計画として、サハラ砂漠に巨大な太陽光発電システムを作る「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」が提唱されている。これは、2009年3月にローマで開催されたG8学術会議において、日本学術会議から提案されたものだ。  サハラ・ソーラー・ブリーダー計画は単なる太陽光発電システムの提案ではない。サハラ砂漠に降り注ぐ太陽エネルギーによって、太陽電池そのものを原料から製造し、初期に持ち込んだ太陽電池よりも多くの太陽電池を生み出そうとするものである。サハラ・ソーラー・ブリーダーシステムの周辺には、シリコン工場や科学研究施設ができるだろう。工場では雇用が生まれ、科学研究施設では、アフリカの国々と日本の科学者が集まり技術交流が生まれるだろう。それを元に砂漠緑化を進めたり、自国の産業、科学人材を育成したりする側面を含んでいる。

外から持ち込まれた太陽電池よりも、自分達で作った太陽電池の量が上回る日がくるだろう。そんな時が来たら、「アフリカ・ソーラー・ブリーダー元年」と呼ぼうとされている。資源の搾取の歴史を重ねてきたアフリカの大地に、自分達自身の力でエネルギー資源を作り出す歴史的な日が来るのを期待したい。光溢れるアフリカの大地は、エネルギーの宝庫なのだから。将来は、「サハラ・ソーラー・ブリーダーシステム」がGENESISに接続され、膨大な太陽エネルギーをアフリカから世界に供給するのだ。  日本は超電導、太陽光発電システム、シリコンなど、この計画に必要な最先端の技術をすべて持っている。技術的にも実現性は高い計画であり、G8学術会議でも高い評価を得られている。

------ 日本の科学技術の国際競争力が落ちていると言われていますが。

国際競争力とは何かを考えなくてはならない。日本は1986年のバブル時期から、不況の時期も含めて22年間も輸出額が輸入額を上回り、毎年の約10兆円という巨額の貿易黒字が続いている。その結果、2007年には、250兆円にも上る世界一の対外純資産を築いてきた。これは、国民1人あたり200万円にも上る。この対外純資産の運用から所得が得られるが、その額は年々増大し、2007年には16兆円にも達した。貿易黒字と所得収支黒字を合わせると26兆円になる。アメリカの国民は一人あたり毎年5万円の利子を日本に払っている勘定になる。

1986年以降の日本の対外純資産の大きな伸びにとは対照的に、国内のGDPは伸びずに国民生活は楽にならないのが現状だ。史上空前の利益を出していた国内企業はその利益を海外に置いたままにしておいたからだ。国内に持ち込めば、法人税制度の問題もあり、利益が縮小してしまうのを避けている。特に21世紀に入ってから、企業はリストラを進め競争力を回復してきた。例えて言うなら、日本の企業は、海外では元気でお金持ちなのに、家を留守にしてしまっている出稼ぎのお父さんの状態であると言える。

海外から見れば、日本の保有資産は膨大であり、高い技術も持っており、羨望の眼差しを受ける。しかし、国内では失業率の高さはもちろん、ポストドクターなどの研究者達も職にあふれてしまっている状況にある。


この閉塞感を打ち破るには、国が音頭を取るなどして、企業が国内で積極的に投資できるようにしなくてはいけない。今、日本の研究者が一生懸命になって研究した成果としての特許を買いに来るのは、海外の企業だ。日本企業の日本離れを食い止めなくてはいけないだろう。日本人が作り上げた技術を、日本企業が積極的に使うようにならなければ、いずれは国内の科学技術も衰退してしまう。

------ 日本の若者に夢や希望がなくなっていると言われています。若い世代が元気になる方法は、あるのでしょうか?

最近の調査を見ても、日本の子供たちが将来を悲観していたり、無気力になってたりすることが見て取れる。

子供たちがこれからの将来に夢を持てるようにするために、夢のある技術を示すのも一つの方法だろう。超電導技術も、その一つになるはずだ。地球規模の超伝導電力システムであるGENESIS計画もその「夢」になるだろう。また、超電導を推力にした船や車を造るという夢を持っても良い。超電導を使って重粒子を発生させてガン治療に使うという研究も始まっている。社会に貢献できるのを生き甲斐として、夢を持てる新しい価値観を創出しなくてはならない。

子供たちだけではない、団塊の世代などを巻き込んで、社会全体として「夢を持つ」、「生き甲斐を持つ」ことを価値観とした社会を築いていくことが重要だ。

科学技術の世界にも、iPS細胞の山中教授や高温超伝導体の細野教授といったスターが出現した。最近では、国際生物学オリンピックで日本の高校生が金賞を受賞した。こういったスターになることを夢見る子供たちが増えて欲しい。そして、そんな子供たちを育成するボランティアが増えていくことで、日本の科学技術の世界は変わっていくだろう。


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